嘔吐と吐出

 飼主様から頂だいする訴えに、「口から物を吐く」というのが比較的多くございます。動物が苦しそうにして「ゲーッ」としている様は、とても気の毒で心配です。しかし、訴えをうかがっているとほとんどの方が「口から物を吐く」=「嘔吐」と解釈されているので、今回は、似たような動作と鑑別点をご案内いたします。飼主様にしっかりご理解いただき、お伝えいただくことで獣医師も大変助かり、スムーズな診療が行えます。

 はじめに、口から物を出す行為は、消化器疾患だととらわれがちですが、「喀出」と言って咳に随伴して起こる、主に呼吸器疾患によるものがあります。この場合、必ずと言ってよいほど動物は、まず咳をします。犬の咳は、重篤な肺疾患で無い限り「ゴホゴホ」とした咳はせず、「ガーガー」と鳴く様な音で、そしてその後「ゲーッ」と泡沫状の白いものを口から出し(喀血などもありますが、今回は割愛します)その後、口をクチャクチャします。一般的には、気管分泌物や、喉頭に溜まった唾液などの粘性物質で構成されています。咳の中枢が嘔吐の中枢の近くにあるので激しい咳をした際は、少量の嘔吐が見られる場合があるかもしれません。

 次に消化器疾患としてですが、食道からの排出である「吐出」と、胃から(又は十二指腸)の排出である「嘔吐」があります。

「吐出」は、原則何の前触れもなく起こります。食べたものが胃に入らず食道に貯まった状態となり排出されるので、多くが未消化の状態で出ます。原因は、食道が大きくなっていたり、物が詰まっていたり、運動性が低下していたり、奇形であったりといろいろあります。余談ですが、食道に物を詰まらせた動物は、始め苦しそうにしたり、吐き出そうとしたりしますが、ある程度経過してしまうと一見症状が落ち着き、治ったかに見えます。しかし、引き続き詰まっているのに麻痺してしまっている可能性もあるので注意してください。

「嘔吐」は、気持ちが悪い状態です。まず、動物は、涎を垂らしたり、クチャクチャと涎を飲み込んだりします。じっとして動かないかもしれません。その後、大きく腹部を膨らましたり、凹ませたりし、一気に胃の内容物を吐き出そうとします。食べた後の時間にもよりますが、ある程度消化されたもの、白い胃液のみ、黄色が混じったものなどを出します。排出された物のpHが胃酸により5以下、十二指腸に分泌される胆汁が混入して黄色くなっている場合は、強く「嘔吐」を疑います。

 このように口から物を吐く行為には、いくつかの鑑別点がございます。あらかじめご理解いただくことにより、動物がどういう状態か把握、次に何が起こるか予測でき、慌てず対応するのにお役立ていただければ幸いです。